レディースチェアとナーシングチェア
エレガントなチェアの名は
座りやすい大きな座面と、心惹かれるオシャレな装飾。
気品ある佇まいが素敵なこのアンティークチェアの名は「レディースチェア」。
上流社会の社交の部屋、ドローイングルーム(ゲストを迎えるお部屋)に置かれていた優雅なチェアです。
こちらはジェンツ&レディースチェアと呼ばれるセット。よく見るとサイズが少し違うでしょう?
大きいほうが紳士用で、紳士用チェアにはアームが付いているものも多いんだそう。
このセットをサロンチェアや長椅子とともに、飾るようにお部屋に配置するのが、19世紀の上流階級に好まれたスタイルでした。
家の格式を表すためにも、高級感のある美しいチェアは大切なアイテム。
後ろ姿まで素敵に作られているんですよ。
さて、
レディースチェアは肘掛が無く、座面がやや低めに作られているのが特徴です。
座ったときにご自慢のスカートが広がって美しく見えるのはもちろんなのですが、どうやらこの形には他の理由もあるようです。
第二次世界大戦が始まるまで、ヨーロッパの女性はふんわりと大きく広がるスカート、そして体を締め付けるコルセットを着用していました。
社交界デビューした「ご令嬢」ともなると、同年代の女性より1インチでもウエストが細く見えるよう競い合ってコルセットを締め上げていたんだとか。
このため、アームがついた狭いチェアや体が深く沈み込むようなソファよりも、こういったアームの無いチェアのほうが座りやすかったようです。
だって、息苦しいほどコルセットで体をギュウギュウに締め過ぎて、座ったときにも姿勢を崩せないのだから。
(あ、いけない。可憐で優雅な世界から少し話が逸れてしまいました。)
コルセットやドレスを身につけていなくても、レディースチェアは座った人をエレガントに演出してくれる素敵なチェア。
心ときめく美しいデザインに加えて、座面が広くてゆったりしているのも腰掛けたときに心地良いので、現代ではエレガントな一人掛けソファとしてインテリアに取り入れてみてはいかがでしょう♪
ナーシングチェアとは
レディースチェアはゲストを迎えるだけでなく、ときに単体でナーシングチェアとして使用されることもありました。
「ナーシングチェア」は赤ちゃんに授乳したりお世話をする際に使われていた椅子のこと。座面が低くゆったりしているから、赤ちゃんを抱っこしながらサッと座れるんです。
ヴィクトリア時代(1837~1901)に授乳用の椅子として造られるようになりました。
ナーシングチェアとレディースチェアの形に大きな違いはなく、どうも家の中で臨機応変に転用していたようです。
実際に座ってみると、このチェアは「座面が固い」ということはないけれど、しっかりとした座り心地です。(※時々スプリングタイプのものもあるそうです)
体が沈み込まないから、赤ちゃんを抱っこしたまま座ったり、体勢を変えて立ち上がるときに必要以上に踏ん張らなくても大丈夫。
さらにアームが無いことで、斜めから・横から腰掛けることもできるし、とても理にかなった形をしているんですよ。
と言っても、画像だけを見て想像するのはちょっと難しいもの。
ここで、普段座っているチェアとどのくらい違うのか、同じデザインのサロンチェアとレディースチェアを比べてみましょう。
左:レディースチェア 右:サロンチェア
画像左、脚先にキャスターが付いているほうがレディースチェアです。
座面は少し低く、大きめ。
そして背もたれもレディースチェアのほうが1.5センチほど幅広に作られているんです。
また、サロンチェアに比べると背もたれの角度があるのもポイントです。
座面の低いレディースチェアに座ると必然的に目線も下がるので、天井が高く広く感じます。
「あ、良い感じ。」
座っているうちに、ホッと一息つきたくなっちゃう。
なんとなく気分も落ち着いてしまう、不思議なチェアなんです。
オシャレに使いこなしたい!
大きな座面で落ち着かないときはクッションの出番。
ときどきフットスツールを使って足を伸ばせば贅沢気分。
気品があって華やか、とっておきのレディースチェアを、頑張った自分のための特等席として選んでみませんか?
ひと口に「レディースチェア」といっても、サイズもデザインも様々。
ゆったりとエレガントに座れる大きめのチェアから、フロアに合わせてコンパクトに作られたチェアまで、雰囲気がまるで違うのが面白いところ。
座るたびに溜息がでる精緻な象嵌細工、透かしの装飾や座面の刺繍など、
装飾ひとつをとっても実に個性的だから、お部屋のイメージにピッタリのチェアを選ぶ時間も楽しいのです。
リビングでイージーチェアとして使っても良いし、今お使いの大きなソファの傍にアクセントとしてレディースチェアを置いてもオシャレです。
佇まいが美しいから、コンパクトなものでも存在感は十分。
手芸や読書など1人で静かに過ごしたい大切なプライベートスペースも、親しく会話を楽しみたいお部屋も、オシャレで居心地よい空間づくりを楽しめます。
さらにキャスターが付いているものを選べば移動も簡単♪
でも、もし移動させる必要がないなら、ぜひ脚の装飾までこだわって選んでみてはいかが?
洗練されたシルエットが、見慣れてしまった風景を足下から美しく整えてくれるはず。
贅沢なリラックスチェアとして、ときにはインテリアを盛り上げるアクセントとして。
そしてオシャレな実用チェアとして。
いつだって使い方はあなた次第。
ときめく1脚を選んで、ウキウキと心弾むインテリアを楽しんでくださいね♪
5年後も10年後も、もっと先まで。
色褪せることなく、あなたとあなたの家族の毎日を素敵にしてくれる。そんなアンティークをビクトリアンクラフトはお届けします。
参考文献
「ヴィクトリア朝英国人の日常生活」 ルース・グッドマン/原書房
「英国メイドの日常」 村上リコ/河出書房新社
「英国貴族の令嬢」 村上リコ/河出書房新社
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